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高松高等裁判所 昭和63年(ネ)145号 判決

控訴人

甲野花子

被控訴人

甲野太郎

右訴訟代理人弁護士

浅野康

西山多一

主文

一  原判決を取り消す。

二  本件を松山地方裁判所西条支部に差し戻す。

事実

一  当事者の求めた裁判

1  控訴の趣旨

(一)  主文第一項と同旨

(二)  控訴人と被控訴人とを離婚する。

(三)  被控訴人は控訴人に対し、金八〇〇〇万円を支払え。

(四)  被控訴人は控訴人に対し、松山地方裁判所西条支部昭和五七年(ヨ)第八三号、同昭和五八年(ヨ)第一七号仮差押事件により仮差押中の全物件を財産分与し、同物件につき所有権移転登記手続をせよ。

(五)  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

(六)  仮執行の宣言

2  控訴の趣旨に対する答弁

(一)  本件控訴を棄却する。

(二)  控訴費用は控訴人の負担とする。

二  控訴人の訴訟手続に関する主張

本件訴訟については、原裁判所において昭和六一年一二月四日午後一時の第一六回口頭弁論期日に控訴人及び被控訴人とも不出頭により休止となり、その後三か月の経過によって訴えの取下げがあったものとみなされ、訴訟終了の処理がなされているが、控訴人は原裁判所に本訴提起以来、一度も訴え取下げの意思表示をしたことがなく、原裁判所の右処理は不当であるから、原裁判所において本件訴訟の審理を受けるため、期日指定の申立に及んだ。

理由

一原審記録によると、原判決に至る経緯として次の事実が認められる。

1  控訴人は原告として、昭和五六年一一月一九日原裁判所に対し被控訴人を被告とする本訴を提起した。

2  昭和六〇年二月七日の原裁判所第一五回口頭弁論期日は、控訴人不出頭のまま延期となり、次回口頭弁論期日は追って指定とされた。なお、右第一五回口頭弁論期日前の昭和六〇年一月一二日控訴人から原裁判所あてに「訴訟手続中止の承継願」なる書面が提出されていた。

3  そして、昭和六一年一〇月二三日になって同第一六回口頭弁論期日は同年一二月四日と指定されたが、控訴人に対する呼出方法は、次のとおりであった。

原裁判所書記官は、右期日の呼出状につき、控訴人の肩書地あてにまず昭和六一年一〇月二三日特別送達を試みたところ、不在により同年一一月六日還付されたので、次いで同月一八日再度特別送達を試みたが、これも不在により同年一二月三日還付された。そこで、同裁判所書記官は右二度目の特別送達が還付されるに先立ち、同月二日、右期日の呼出状につき控訴人の肩書地あてに書留郵便に付する送達(以下「付郵便による送達」という。)手続をなし、郵便局配達担当者によって同月三日、四日両日配達が試みられたが、いずれも不在のため同月一七日還付された。

なお、右付郵便による送達がなされた際、右送達の実施及びその効力を記載した通知書が普通郵便で控訴人に送付された形跡はない。

4  原裁判所は前記第一六回口頭弁論期日に当事者双方が出頭しなかったので、休止とし、その後三か月以内に期日指定の申立がなされないまま経過したが、控訴人は昭和六二年一二月一七日原裁判所に対し同月一六日付書面により口頭弁論期日指定の申立をしたところ、同裁判所は以上の事実関係を前提にして本件訴訟は同年三月四日の経過により訴えの取下げがあったものとみなされ終了したものと判断して、原判決をなした。

二ところで、民訴法二三八条所定の訴え取下げの擬制は、当事者が適法に呼出を受けた口頭弁論期日に出頭せず、又は弁論をなさずに退廷したうえ、三か月以内に口頭弁論期日指定の申立がない場合に、当事者には訴訟を維持進行する意思がないとして訴えの取下げがなされたことを擬制する趣旨のものであるから、右期日の呼出が適法有効になされていなければならないことはいうまでもない。

そこで、右期日の呼出が適法有効になされているか否かを前記認定の事実に基づいて判断する。

1  まず、控訴人に対する原裁判所第一六回口頭弁論期日の呼出状は、民訴法一七一条によって送達できなかったため、同法一七二条の付郵便による送達によってなされたもので、同法一七三条により右郵便を発送した昭和六一年一二月二日その送達があったものとみなされるのであるから、同月四日の口頭弁論期日の呼出としては適法有効になされたものと認められないではない。

2  しかしながら、送達が適法有効になされたというためには、送達されるべき文書がその目的を達するように送達されなくてはならず、右文書が本件のように口頭弁論期日の呼出状であるときは、被送達者の右期日への出頭が可能となるようになされなければならないのであって、この理は付郵便による送達の場合といえども異なるところでない。

元来、本件のように受取人不在で特別送達が不能であるためになされた呼出状の付郵便による送達は、再び受取人不在で配達ができず、差出人に還付される可能性が大きいが、そうであるからといって、受取人がこれを受領する可能性が全くないものとはいえず、なおその可能性は残されているのであるから、送達事務の取扱者としては右受領の機会を保証し、右受領があったときは、送達の目的を達するように配慮しなくてはならない。裁判所が付郵便による送達をなすに際し、同時に受取人に対し、同人不在の間にも配達される普通郵便をもって右付郵便による送達が実施されたこと及び右発送の日に効力の生ずることを知らせている取扱いの多いのも右配慮の一つにほかならず、本件においても前記期日前後の口頭弁論期日の呼出状については控訴人に対し付郵便による送達をするにあたり右取扱いをしていることが原審記録上明らかである。

右普通郵便による通知はともかくとして、たとえ付郵便による送達の方法を取らざるをえないとしても、右方法により郵便物が受取人不在のため配達できなかったときは、その配達担当者はそれから一〇日間右郵便物を郵便局内に留め置き、その間受取人の申出によって再度配達することも、また、局内で直接交付することもでき、これらがなされなかったとき始めてこれを差出人に還付することとされている(昭和二二年一二月二九日逓信省令第三四号郵便規則九〇条)のであるから、右郵便物は始めに配達が試みられたときから一〇日間はなおこれが受取人に再び配達され、又は交付される余地を残しているのである。

そうすると、付郵便による送達によって受取人に到達したものとみなされた文書が、右郵便局内の留め置き期間である一〇日間のうちに、その目的を達成できなくなるような内容のものであるときは、右送達は適法有効になされたものとみることはできないものと解すべきである。

これを本件についてみるに、前記認定事実によると、原裁判所第一六回口頭弁論期日の呼出状は付郵便による送達方法により右期日の二日前に発送されたもので、右期日の前日及び当日に配達が試みられたが、いずれも控訴人不在のためその目的を達することができなかったのであるから、少なくとも最初に配達された日から一〇日間は控訴人に右呼出状受領の余地が残されていたものであるところ、右口頭弁論期日は右期間の起算日に到来するものであることが明らかである。そうすると、右付郵便による送達方法によって控訴人に届けられるべき呼出状は、郵便局内の留め置き期間である一〇日間のうちに、その目的を達成できないような内容のものであるというべきであるから、右送達は違法無効のものと解さざるをえない。

仮に、最初に右呼出状の配達を試みたとき、いまだ口頭弁論期日が到来していなかったことから、右付郵便による送達を有効と解する余地があるとしても、前記のとおり右呼出状は口頭弁論期日の前日及び当日に配達が試みられているのであるから、控訴人が右配達によって右期日を知ることができても、右期日に出頭して口頭弁論をなすに必要な準備をする余裕はほとんどなかったものといわざるをえず、まして、前記認定の事実によると、右期日の前の第一五回口頭弁論期日は控訴人提出の書面を斟酌したためか延期となり、次回口頭弁論期日は追って指定することとなっており、それから約一年八か月半ものちに、職権をもって第一六回口頭弁論期日を指定していることが認められるのであるから、右期日の指定はともかくとして、控訴人に対するその呼出を前記態様の付郵便による送達をもってなしたことは余りにも控訴人の対応を無視したものというべく、いずれにせよ、右呼出のための前記送達は違法無効たるを免れない。

3  以上のとおりであるから、原裁判所第一六回口頭弁論期日の呼出は、形式的には適法になされているが、実質的には違法無効のものである。

三そうすると、原裁判所第一六回口頭弁論期日は控訴人に対する適法有効な呼出なくして開かれたものであるから、仮に控訴人の出頭がなくても休止にすることはできず、したがって、その後口頭弁論期日指定の申立がないまま三か月を経過しても訴えの取下げを擬制できず、本件訴訟はいまだ原裁判所に係属中のところ、昭和六二年一二月一七日控訴人から同月一六日付書面で同裁判所に対し口頭弁論期日指定の申立があったので、同裁判所は速やかに右期日の指定をしなければならない。

四よって、右と異なる原判決は不当で、本件控訴は理由があるから、原判決を取り消して本件を原裁判所に差し戻すこととし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官高田政彦 裁判官松原直幹 裁判官孕石孟則)

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